太極武藝館


太極武藝館居着きを科学する


基礎知識居着き編

角運動量について


 前回、『力のモーメント』について説明しましたが、さらにこの話を進めて物体の回転しているときのエネルギーについて説明していきたいと思います。
 角運動量とは、ある物体の回転の勢いを表す量のことです。
運動量を回転運動に当てはめたと考えれば理解しやすいかもしれません。
 たとえば、小さい独楽と大きい独楽を回すと、大きい独楽の方が小さい独楽よりも周りのものをはじく力が大きいですよね。
 このことを物理学では大きい独楽の方が「角運動量が大きい」と言います。

 右図では、物体が速度 v で矢印方向に運動しているとき、その角運動量 L を、半径 r運動量 p で表わすと


L=r×p


となります。

 物理的にいうと、歩行の際に足の接地点を支点とした角運動量が次の足を置くことによって損失する割合が少ないほど、効率の良い歩き方だということが出来ます。


ゼロモーメントポイント(以下ZMP)について


 ZMPというのは簡単に言ってしまうと、運動中における床から受ける力の中心のことです。

歩行の際の足裏にかかる力を考慮するときに
必要とされる考え方なのですが、図のように
足の裏に働く床に押される力(床反力)が
分布している場合、これらを合わせて、
原点 0に働くひとつの並進力 F 回転モーメ
ント M
で表すことが出来ます。

 このとき、F の作用点をずらして F' の位置
に水平移動させると F' F と同じ大きさの並
進力であるとともに原点 0 周りにもモーメン
トとして働くようになります。

 そのため、F' の発生するモーメントが M
等しくなる点が必ず一つ床面上に存在するこ
とになります。
この点のことを ZMP といいます。


 少し理解しにくいかもしれませんが、身近
な例で考えてみると、竹馬などがあげられま
す。

 普段、私たちが歩いているときは足裏全体
から床反力を受けているのですが、ZMP を考
慮に入れてみてみると、足裏を ZMP の一点で
の接地による竹馬と考えることが出来ます。

 しかし、当然ながら踵側の圧が強くなった
り、つま先側の圧が強くなったりするため、
ZMP は歩行中も足裏を移動し続けていますか
ら、厳密に言ってしまえば異なるということ
も理解しておいて下さい。


弾性エネルギーについて


 輪ゴムによる鉄砲やホッピングについて考えてみましょう。
 輪ゴムやホッピングは、形が変わって飛んだりはねたりすることが出来ますね。
このとき、この輪ゴムやホッピングからは明らかに運動エネルギーが生じていることが解ります。
しかし、何もないところから自然にエネルギーが発生することは、前に述べてきた力学的エネルギー保存の法則に反します。
 すなわち、この輪ゴムやホッピングに蓄えられているエネルギーは、何らかの形で供給されたものであるはずです。

 例えば、輪ゴムの鉄砲は、輪ゴムを指に引っ掛けて、指で引っ張らなければ飛ばすことが出来ません。エネルギーは、この指で引っ張る、という動作の中で蓄えられています。
この時、指は輪ゴムに力を加えて動かしているので、この仕事が輪ゴムにエネルギーとして蓄えられていることには何の不思議もありません。
この時蓄えられているエネルギーを弾性エネルギーと言います。

 人が走っているときや歩いているときにも、筋骨格系に弾性エネルギーが蓄えられ、筋が発生させるエネルギーの25〜50%ものエネルギーを再利用させることが出来るのです。
これは生態学的に見て、非常に効率の良い機構であるといえます。

 さて、今度は具体的に式を用いて説明していきます。
ばねを伸ばしていくときの弾性エネルギーについて考えてみます。
ばねを伸ばしていくときは、指がばねに力を加えながら動かすので、指がばねに対して仕事をしたということになります。
この時、ばねにかかる力は一定ではないので、力と距離を掛けるだけでは指がする仕事を求めることは出来ません。
 ばねを伸ばすのに必要な力は、ばねの伸びによって変化していくのですが、ばね定数を k 自然の長さからのばねの伸びを x とすると、ばねを伸ばすのに必要な力 F は、フックの法則にしたがって、となります。 

 このような時、どうすれば指がした仕事を求められるか考えてみましょう。
ばねを伸ばしていくと、伸ばすのに必要な力は上述したフックの法則より、下図のように徐々に変化していきます。
このグラフをもとにしてばねの仕事の量を計算すると、指のした仕事は、図の三角形の面積になるので、三角形の底辺 x、高さ kx より、ということになります。
この指がした仕事が、ばねに弾性エネルギーとして蓄えられます。




 さて、次にこの弾性エネルギーを含んだ、力学的エネルギー保存の法則を説明していきます。
ばねの先に台車を付けた実験器具を用いて考えてみます。
このばねの弾性エネルギーはどのようなものになるでしょうか。



 上述したように弾性エネルギーは変位に関する二次の関数なので、下図のような下に凸の放物線になります。



 そこで、手でばねを A だけ伸ばしていくときを考えると、ばねにはの弾性エネルギーが蓄えられていることが分かると思います。
この時、台車は運動していないので、運動エネルギーはです。
 また、高さは不変であり、位置エネルギーは考慮する必要がないので、この弾性エネルギーが力学的エネルギーの総和となります。




 ばねを伸ばした状態から手を離すとばねは縮み始め、弾性エネルギーが小さくなりますが、台車はばねの仕事によって運動エネルギーを得るため、力学的エネルギーの総和は変わりません。
更にばねが縮み、ばねの長さが自然の長さになると、弾性エネルギーはとなります。
しかし、このときは運動エネルギーが最大となり、やはり力学的エネルギーの総和は変わりません。




 台車がその運動エネルギーによって ーA の位置までくると、弾性エネルギーは最初の量になり、運動エネルギーは になります。
そして、台車は向きを変え、再び運動し始めます。
こうして、ばねに繋がれた物体は右から左、左から右へと振動を繰り返します。




 このように、ばねの要素を持つ物の体系を考えるときには、弾性エネルギーも含めて考えなければ、実際の運動を再現できないことが分かると思います。
人間の筋・骨格系はばねとしての要素を持っているので、当然、位置エネルギーと運動エネルギーだけではなく、弾性エネルギーを考慮に入れて考えなければならないのです。


[Topへ]


Copyright (C) 2004-2010 Taikyoku Bugeikan. All rights reserved.