太極武藝館


太極武藝館居着きを科学する


基礎知識居着き編

 さて、今回のテーマは「腰相撲」です。
 この腰相撲という練功は、太極武藝館では武術的な身体を作っていく為のたいへん重要な練功とされています。これは陳家溝の老師たちを始め、他の陳式太極拳門派でも同じような練功が行われていますが、太極武藝館で行われているものとは内容的に相違があるように思いますので、そのあたりを整理する意味も含めて、この「腰相撲」というテーマを科学してみようと思います。



「 腰相撲 」とは
<図1>


 まず、腰相撲についての説明ですが、
<図1>のようにお互いがちょうど日本の国技である相撲を取るような姿勢をとって相手に腰を押していってもらうという練功です。
 太極武藝館ではこの腰相撲の状態でただ耐えていると言うだけでなく、そこから相手を跳ね返したり、そのまま投げに入ったりなどといったいくつかのバリエーションを織り交ぜていくことで、太極拳に必要な身体操作法を身につけていこうとしています。



「 押されない 」とは


 この練功を分析して面白いところは、押されるがいくら身体が大きく体重の重い人であっても軽く動かされてしまったりすることや、身体が小さく体重の軽い人でもどんなに強く押されても動かない、などといった、「重いものは動きにくい」という物理法則(慣性の法則)に反する結果が出てくるところでしょう。

 さて、そこで下図のように、人がある外力(人が押す力)が及ぼされている状態で立っているときについての力の分析をしてみましょう。

 なお、<図2>においては、人の重心について着目して分析しているため、足のおかれている位置に直線的に線を引いてありますが、実際の足の形と一致しているわけではありません。


<図2>


 この場合、F(外力)というのがこの人が押されている力(床に対して平行)NN’(垂直抗力)は床が人を押している力(Nは後ろ足、N’は前足)、Mgは重力ff’は静止摩擦力のことです。

 このとき、この人が押されないためには、掛かっている全ての力の和が0になっていることと、任意の点における力のモーメントの和が0になっていることが必要です。


 ちょっと難しく思えるかも知れませんが、簡単に言ってしまうと、押されている力と耐えている力が釣り合っていることと、押されていることによって回転しないようにしなければならないと言うことです

では実際に計算してみましょう。


 以上のような3式が成立していないと腰相撲では「押されない」ということが出来ません。
腰相撲をしていて押されない人は、意識的か無意識的かは別として、この3式が成り立つように身体をコントロールしているというわけです。



「 押される 」とは


こうして考えてみると「押される」ということにはいくつかのパターンがあることが分かります。



<図3>


 上の(2)式を見ると分かると思いますが、静止摩擦力が低すぎて、押されている人がツルーッと床を滑っていってしまう状態です。これは一般的な床の上でやっている限り、ほとんど見られない
パターンです。




<図4>

(押す力による回転する力で崩れてしまうパターン)


 今度は上の(3)式において釣り合いが成り立たなくなってしまう状態です。
このパターンは腰相撲においてよく見られる状態で、このように崩れる場合はまず前足が浮き上がり、後ろ足を中心とした回転運動をして押されてしまいます。




 今までの2つのパターンは人間を剛体(押しても形の変化しないもの)として扱ってきましたが、人間は当然押されれば形の変形するものなので、その中でもオーソドックスなものを二種類取り上げてみました。




<図5>



<図6>


 上の図の状態ですが、このパターンでは膝関節(または股関節)にかかっている力のモーメントが崩れることによって起こる状態で、押されている人の膝を伸ばそうとする力のモーメントよりも押すことによって生じる膝関節(または股関節)が曲がる方向にかかる力のモーメントの方が大きくなることによって生じます。




<図7>


 脊椎は複合的な動きが出来る構造を持っているので、上で示した3式だけでは厳密な計算はできないのですが、そうすると分かりにくくなってしまうので、おおざっぱに言うと(2)、(3)式の釣り合いが崩れることによって生じます。このパターンも非常に多い崩れ方の一つで、に示したような崩れが生じたときにその崩れを代償するために脊椎を弛ませて耐えている人に多く見られます。

 以上示してきたのが「押される」という現象です。理解できましたでしょうか。
腰相撲をやったことのある人は、このような感覚を実感している方も多いのではないかと思います。ここから先は、今まで述べてきた「押されない」、「押される」がきちんと分かっていないと理解できないと思いますので、しっかりと頭の整理をつけてから先に進んでください。


 さて、「押されない」「押される」という物理現象が理解できた上で、様々なバリエーションについて考えていきましょう。


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